ともに建築関係のお仕事をされる夫妻は、耐震性が高いSE構法に魅力を感じ、フクダ・ロングライフデザイン(当時は福田工務店)に依頼。2006年に新居が完成しました。当時8歳と5歳だったお子さんは、就職などを機に巣立ち、2023年春からご夫妻2人暮らしが始まっています。
※記事中の年数などは取材時のものです。
「日あたりが何より大事。転勤族で何度も引っ越しをした経験から、そう考えていました」
今見ても斬新な阿部様邸。細長い敷地をさらに縦に割った半分に建物を配置し、南面を大きく開けたプランが提案されたとき、「勇気のいるプランだな、と思いました(笑)」と勝さん。それでも数案出されたプランのうち、迷いなくこれを選んだのは、日あたりがよさそうだと思ったからだそう。「転勤族で引っ越しを繰り返し、5軒くらいの家に住んだ経験から、日あたりのよさが住まいにとって何より大事だと考えていたんです」と栄子さんもうなずきます。それから18年、利便性の高い街中でありながら、たっぷりの光と空の眺めを楽しむ、快適な暮らしが紡がれてきました。
とはいえ、住んでみると夏の日差しは予想以上でした。そこで入居1年目、DKの吹き抜け部分にシェードを設置。上部からの光を遮断することで暑さを軽減し、「1階はエアコン1台で快適に過ごせるようになりました」。そして日差しの恵みが存分に発揮される冬。「日中は大きな窓からの光のおかげで暖かく、暖房はガスファンヒーターだけです。夜もそれだけで暖かいし、朝も温もりが残っているので寒さは苦になりません」。
「食事もお酒もおもてなしも、全部このテーブルで。ずいぶん長い時間、ここに座っていますね(笑)」
この家の主役ともいえる存在なのが、DKの長いテーブルです。建築の一部として、床材と同じ杉材で造作されています。「食事だけでなく、料理をするときは作業台になりますし、おしゃべりするのもテレビを見るのもここです。子どもたちが小さい頃はここで宿題をしていましたし、成長してからは4人でお酒を飲んだり。今海外に住んでいる息子とビデオ通話をするときは、タブレットをここに立てて参加させてます(笑)」。
来客のおもてなしもこのテーブルで。そんなときに気になるのが雑然とした生活感です。「だから扉で隠せるキッチンにしてほんとによかった」と栄子さん。ふだんは扉を開け放して便利に使用。必要なときにサッと扉を閉めれば、シンクもコンロも収納も、冷蔵庫まで隠れ、まるで壁のようになります。木のテーブルにガラスペンダントが下がった、おしゃれなカフェのような空間に早変わりというわけです。
「リビングが狭くなるからソファは置かないでおこう、と最初から決めていました」と勝さん。ラグを敷いて床でゴロゴロくつろぎます。「DKと段差があって、床に座ってもDKの椅子に座った人と目線が合うのも、ソファが必要ない理由かもしれませんね。ソファが欲しいと思うことなく18年が過ぎました」。
テーブルもDKやリビングの床も無垢の杉材だから、染みや傷、へこみもありますが、それが何とも言えないいい表情に。まさに積み重ねられてきた家族の歴史がうかがえ、いとおしさが感じられます。
「ほどよく気配を感じるスタディスペース。閉じこもらず、干渉しすぎず使える場です」
家を建てるとき、「だだっ広い家はいらない。自分たちにちょうどいい広さ、家族がほどよい距離感で暮らせる家にしたい」と思っていたという夫妻。それを実現した一つの場所が2階のスタディスペースです。子ども部屋は寝るだけの広さにし、勉強はここで、という意図で計画。2人並んで仲よく、ときにはケンカしながら勉強していたそう。「特に息子はここが大好きで、真夏の暑いときもここにいましたし、中・高はもちろん、大学生になってもここで勉強していましたね。勉強以外のこともしていたかもしれませんが(笑)、特に覗きに行ったりはしませんでした」。
お子さんたちが巣立たれてからは、栄子さんがここを活用。「一級建築士の資格の勉強をしました。ここは吹き抜けで1階とつながっているから、テレビの音なども聞こえるんです。その雑音が集中するのにちょうどいいんですよね」と、ご長男が気に入っていた理由にも納得されたご様子です。
お子さんたちが小さい頃からずっと、「閉じこもらない」生活が身についている阿部さんご一家。コロナ禍でステイホームが推奨された時期、大学生だったお子さんたちと夫妻の4人がほぼ家にいる暮らしでしたが、「誰も部屋にこもらず、ずっと1階にいましたね。同じ空間で気ままに別々のことをしていました」。風通しのいいご家族関係がうかがえます。
「家もものも、自分たちに必要なものを見極めて、気に入ったものを長く大事に使っていきたい」
18年間の暮らしの深みは感じられるものの、生活感が出すぎることなく、すっきりした印象の阿部様邸。「子どもたちがいたころはもっと荷物が多かったんですよ」とのことですが、それでもものがあふれて困るというようなことはなかったよう。「買い物をするときはよく考えて、なくてもいいものは買いません。食器などは家を建てるときに手持ちの食器の量に合わせて棚をつくり、はみ出さないようにしています」。そして選んだものは長く大切に使っているご夫妻。「気に入ったお鍋など、気が付くと20年くらい使ってますね」。
そんなご夫妻のもの選びの姿勢は家づくりにも共通しています。たとえばトイレは1階にしかありません。「とりあえず2階にもトイレを」との発想はなかったそう。「それで今まで困ったことはないし、今のところ階段の上り下りもできるから大丈夫(笑)」。そして「建てるときによく考えてつくった家だから、気に入ったまま今まで過ごしたし、これからもずっとそのまま過ぎていくんだと思います」。
2人暮らしになって今後の家の使い方にも思いを馳せるご夫妻。「子ども部屋を何かに使うことも考えていますが、子どもたちが帰ってきたときの居場所もいるだろうし」と楽しい迷いが生じているようです。「今でも娘は帰ってくると『木の香りがする』というんですよ」と栄子さん。お子さんたちにもいつまでも心のよりどころになるような、心地よくて大好きな家であり続けるのでしょう。
新婚旅行で買った靴です。もう27年?8年?何度も修理して手を入れて履き続け、今も仕事で履いています。専門店にオーバーホールに出したりもしているので、ずいぶんお金もかかっていますね。でも気に入った靴なので、これからも大切に履き続けたいです。
玄関から入ったところのコート掛けは、気に入っている場所の一つです。帰宅してすぐに上着を掛けられるし、両側から使えるから便利なんです。それに家に帰ってきてほっとできる、『ただいま』という気分になれる場所だから好きなのかもしれません。