ーパッシブZEH・福島の家ー③

2023年7月24日更新

こんにちは。チーフプランナーの千知岩です。

さて今回は『パッシブZEH・福島の家』第3回、計画課題.②の最適解を導くための方法論についてご紹介したいと思います。

 

 

建て替えによるご家族3人の2世帯住宅の完全分離タイプのお住いです。 

計画地は淀川の河口付近に位置し、再開発のほたるまちには朝日放送本社他、駅周辺には曲がりくねった通りに小規模なレストランが多数ある人気のエリアです。

東側6M道路で敷地と道路はほぼフラット、周辺建物が密集する近隣商業地域、準防火地域に指定された25坪弱の整形(東西に長い)な土地です。

 

ご要望は

・ビルトイン駐車スペース

・食事が楽しめる広いバルコニー

・ゆったりとした階段

・収納スペースを余すことなく利用したい

・できるだけ日当たりよくしたい

 

計画の課題及び提案

①.土地利用計画とゾーニング計画

②.プライバシーの確保と終日日射取得の両立

 

 

検討を重ね最適解に至った方法論ですが、

②.パッシブデザインにおいて日射取得検討は、周辺建物の影響から敷地における最も日射熱取得の高いエリアを探すことから始めます。
特に周辺の建物で囲まれた市街地においては、断面設計だけでは確認ができないため、日照シュミレーションを行いながら冬期10時間の日照がある中で南面のみではなく、あらゆるところから日射熱取得の可能性を探します。

 

【周辺状況を把握】

東側は道路幅員6M、対側には3階建てが立ち並び、真向いに9階建の共同住宅があり、プライバシー面に注意が必要です。
北・南面は建替え前の建物が建売住宅で同じ屋根形状が連続し、隣棟間の距離は少なく、空地がほとんどありません。
西側は2階建及び一部3階建が密集して立ち並んでいますが、唯一グーグルマップで空地が存在します。

 

【建物形状から日射取得の確認方法】

ここで、明るさと暖かさの違いについて触れておきたいと思います。
明るさ(導光)については後日改めて説明させて頂きます。
室内を明るくすることは難しいことではありませんが、暖かくするためには日射熱をダイレクトに室内へ取り込む必要があります。
建て込んだ市街地では周辺状況に左右される為、プランの初期段階でどこから熱を取り込むことができるのか詳細な検討を行います。
熱源を持たない断熱気密化された建物は、そのままでは冬期には暖かくなりません。
室内を暖かくするには暖房設備が必要ですが、まずは自然エネルギーを利用できるものならできるだけそうしたいですよね。
冬期の太陽高度は地域によって異なりますが、関西圏における冬期の南中高度(正午)は約31度です。
また午前午後は、太陽高度の軌跡により角度が変わります。
周辺状況をgoogle earth で確認及び現地にて仮測量を行い、3Dモデリングで日射熱を建物のどこに受けることができるか、どの時間帯に日射熱が最も多く得られるかを検証していきます。
今計画においては南面が同じ3階建ての為、日射熱を取り込むことができません。
東側道路の対側には共同住宅(9階建)が現存しますが、道路は空地ですので朝日が1〜2時間程度差し込みます。
西面は、2階建及び3階建があるものの計画建物を境界からセットバックさせて空地を作ることで日射熱の取り込みが可能です。
建物間口全体を後退させることで日射熱を取り込めることが、3Dモデリングで確認できました。
さらに建物を後退させた部分に吹抜けを設けることで、2階への日射熱の取込みも可能なことが確認できました。

 

【当社規定項目の確認】

それでは、以下2点を検証します。
晴天時冬期日照時間(10時間)の6割に相当する6時間を取得する開口を確認し、さらにリビングダイニングキッチンからつながるパッシブソーラーエリア(床面積)に20%の開口面積を確保するよう、開口部設計でファサードを考慮しながら検討します。
上記の面積は、リビングダイニングキッチンにおいて建具(熱の移動を遮る)で仕切る部分までの床面積を算定します。
断熱性能のみ考えるならば日射取得できない南面の窓は作らないほうが良く、窓は屋根・壁に比べると1/6程度の断熱性能で、熱損失が増加するためです。
南面は、日射熱取得が隣接建物で期待できないため午前中、午後からどの程度熱取得が可能か日照シュミレーションで検証します。
結果、午前中の東面に約2時間弱、午後から西面に約4時間半程度の日射取得が確認できました。
以下は以前のブログでも書きましたが、
日照時間(冬期10時間)は3Dモデリング(グーグル:スケッチアップ)でシュミレーションを確認、上記の日射熱取得時間、面積共にクリアすることで、当社の断熱性能から冬期晴天時において室温が20度近くまで上昇し、暖房負荷を軽減します。
ちなみに冬期の晴天日数ですが、外気温で最低気温が5度を下回る2021年10月17日から最低気温が10度を超える2022年3月12日までの期間で、約5ヶ月の内7割の100日以上ありますので、自然エネルギーの日射熱を利用することを必須とし、温かい室内で過ごしたいですね。

 

【プライバシー確保】

道路面に日射取得用の窓を作る際、腰高窓(大人の腰の高さからの窓)を作ると周辺建物状況により外からの視線が気になり、プライバシーを守るためカーテン等を締め切ってしまいます。
それを回避する方法としては、緩衝帯を室内と屋外の間に作ることです。
バルコニーを作ることでプライバシーが守られ、大開口を作ってもカーテン等を締め切ることなく開放して使用でき、かつバルコニーの手すりまで室内から空間がつながり視覚的な広がりも確保できます。
また3階の日射熱取得用の西側窓については、今計画建物で最も熱取得とプライバシーに有効な窓となります。
窓を出来うる限り大きくすることが可能です。
この外壁面は周辺建物に窓が少なくプライバシーが守られるのですが、ただ窓を大きくするだけではなく、居心地の良い窓際を提案しました。
主階のリビングダイニングキッチンは、腰掛けるためのソファやスツールがありますが、プライベートスペースには、書斎や寝室のベッドなど以外は腰掛ける術がありません。
中間期など涼風が気持ちいい季節などで、ふと窓際に腰掛けられる場所があると時間もゆっくり流れそうですね。
お気に入りのスツールを置けるスペースをあらかじめ用意するのも一つです。
いろんな場所にそんなゆっくり時間が流れるい居心地の良い場所を今後も提案していきたいと考えています。

 


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