住まいのコラム|4.「惜しい!家」にならないために

こだわってるのはわかるけど…。
なぜか「惜しい!」と思わせてしまう家に共通するのはお施主さんの「こだわりすぎ」が原因でした。
家づくりを真剣に考えるからこそ、頼れるところはプロの設計士やコーディネーターにしっかり頼りたい。

 

住宅ライター佐々木由紀さんによる「住まいのコラム」第4弾。
4.「惜しい!家」にならないために

連載の第1回目で、「どんな家でも取材でお話を聞くうちに、いい家だなあと思えてくる」というようなことを書きました。確かにその通りで、「いやだな」「嫌いだな」と思うことはほとんどないのですが、「惜しい!」と思うことは結構あります。

 

こだわっているのに惜しい家、おまかせだけど個性的な家

「惜しい!」と思う家は意外に、お施主さんが「こだわりました」という家に多いのです。正確にいうと、こだわりの強いお施主さんと、「何でもおっしゃる通りにいたします」という住宅会社との組み合わせ。床材から壁紙からタイルから照明器具からパーツから、全部お施主さんが自分でこだわって選び、そのままつくったというような家です。お施主さんはもちろん大満足なんですが、第三者的にはどこかバランスが崩れていたり、微妙にちぐはぐな箇所があったり、ときに「盛りすぎ」と感じたりして、惜しいと思うのです。

同じようにこだわった家でも、すごく洗練されているなあと思う家は、よく話を聞くと設計士さんやコーディネーターさんが上手に舵取りをしています。お施主さんの要望をきちんと聞いて受け止めつつ、プロの目で俯瞰し、よりよい提案をして納得させているよう。中にはお施主さんには「全部自分で選んだ」と感じさせながら、実はちゃんと統一感を持たせるように誘導しているという、一枚上手の設計士さんもいます。

こだわりの強い人は、思い通りにしたいがゆえに、「おっしゃる通りにいたします」という会社を選びたくなるかもしれません。「自分の家なんだから、自分の好きなようにしたらいいじゃないか」という意見もあるでしょう。でもこだわりたいというのは、家のことが好きってことですよね。それなら要望通りに形にしてもらうより、もっと素敵なものを提案してもらう方がよりワクワクするじゃないですか。そのチャンスを逃すのは惜しいことだと思います。

ちなみに私の印象では、「おっしゃる通りに」というのは、営業マンの力が強い会社に多い。設計士やコーディネーターがどれくらい力を持っているか、直接話ができるかどうかというのは、一つの見極めポイントだと思います。

 

寄せてるけどちょっと違う家も、惜しい

 

上の例と似てるけど若干異なるのが、研究熱心で知識の豊富なお施主さんと、「どんな家でもつくれます」という住宅会社の組み合わせ。間取りプランやデザインをお施主さんがこと細かに指示し、それに住宅会社が全力で応えるパターンです。「頑張ったなあ」とは思うのですが、「惜しい!」と感じる部分も目に付くのです。

たとえばリビングからデッキにつながるプランで、妙な段差があったり、シンプルな空間に余計な枠があったり、塗り壁のコテむら具合が不自然だったり。たぶん、住宅会社がそれまでやったことのない、得意分野ではないプランやデザインだったりするのでしょう。「頑張って寄せてるけど、ちょっと違う」というのを見ると、もぞもぞしてしまいます。

研究熱心なお施主さんは、自分がきちんと指示すれば思い通りの家がつくれるはずだと考え、目指すスタイルの家をつくる会社ではなく、あえて主張の強くない住宅会社を選んだりするんですね。でも「スタイルを持っている住宅会社」って、サラッとやっているように見える部分も、実は蓄積されたノウハウがあったり、地道な技の積み重ねがあったりするのです。

誌面にはなかなかそこまで反映できないのですが、設計士さんの話を聞くと、たとえばすっきり見せるための細部のこだわりとか、素材の選び方とか、施工の緻密さとか、見えない部分の技やコツに感心することがたくさんあります。

それをやったことのない会社が真似ようとすると、素材探しから施工から試行錯誤で苦労しますし、お施主さんも伝えたいことが伝わらない、思ったように実現できないというストレスを抱えることになります。会社選びが違っていたらもっとラクに、質の高い家ができただろうに、いろんな意味で惜しいなと思うのです。

 

イメージの集め方、伝え方

最近はインスタグラムやピンタレスト、ルームクリップなど、ネットで「好きな家のイメージ」を手に入れやすくなっています。集めた画像を設計士さんやコーディネーターさんに見せて、要望を伝えることも多いでしょう。イメージだけではなく、品番さえも指定することもできます。でもこのような要望の伝え方も、ちょっといびつな「惜しい!」家の原因になってるんじゃないかと思います。

「リビングの床はこれ」「キッチンはこんなの」など、写真や画像を見せてピンポイントで指定するのではなく、「好みの傾向を理解してもらう」という程度の気持ちでいる方が、まとまった空間づくりという点では成功すると思います。設計士さんなども優れた人は、見せられた画像をそのまま反映するのではなく、その中から傾向を読み解き、「この人はこんな感じが好きなんだな」という指針にしているようです。

なにより、いきなり部分部分のデザインに走るのではなく、「どんな家に住みたいか」「そこでどんな暮らしがしたいか」を根本から考えてほしいなあと。簡単にイメージが手に入るツールがそのプロセスを省かせてるんじゃないかなと、ちょっと危惧したりもします。

 

見直してほしいアナログな手段

要望をヴィジュアルで伝えるといえば、以前は雑誌の切り抜きをスクラップするのが主流でした。今は雑誌を購読する人も減り、イメージ画像の収集もネットへ、スマホへと移っています。でもこの「雑誌の切り抜きをスクラップ」という手法は、アナログならではのよさがあると思うのです。

雑誌の切り抜きだけでなく、ネット画像のプリントアウトでもいいのですが、スクラップすれば一覧性があり、全体が見渡しやすいですし、余白に自分のコメントを書き入れてイメージを膨らませることもできます。スクラップという具体的なものがあれば、家づくりが進行して迷いが生じたときに、立ち戻る「よりどころ」にもなります。実際に今でも素敵な家を建てた人の中には、「夢ノート」的なスクラップをつくり、家づくりの途中にも貼り足して分厚く膨らんだものを、完成後も思い出の宝物として大切に保存している人もいます。

↑こちらはT様邸の実際のスクラップブックの一部です

 

そして雑誌や書籍という媒体自体も見直してほしいなあと、紙媒体好きの私は思います。旬の情報を収集するには、ネットが優れているでしょう。でも1冊の住宅雑誌や書籍の中には情報が集められているだけでなく、「家」に対する編集部や著者の姿勢や主張が貫かれています。それをじっくり読んで、写真も隅々まで見て、共感したり反発したりしながら、自分の「家」に対する考え方を熟成させてほしいなと思うのです。

 

 

前回のお話(第3弾)はこちらから→ 3.「快適さ」と「心地よさ」 ― その2『広さ』


Sasaki Yuki

住宅ライター

広告のコピーライターを経てフリーランスのライターに。住宅・インテリアを中心に一般のお宅を訪れて取材し、雑誌などに原稿を執筆する。合間に楽器バンジョーを奏で、時折音楽イベントを企画。

soho MUGCUP

– KAMAKULANI

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