さて今回は『非日常空間が同居する売布の家』第1回、計画課題.②の最適解を導くための方法論についてご紹介したいと思います。

土地探しからスタートされたご家族4人の2階建てのお住いです。 

計画地は宝塚市南部に位置し、縁結びの神様としても隠れた人気がある売布神社が有名です。

東側8M・南側6Mの道路で北から西へ1.7M程の高低差のある角地で、壁面後退1.0Mの第1種低層住居専用地域に指定された整形（台形型）な約70坪の土地です。

・2階水廻りと1階には大容量の収納が欲しい

・軒をできるだけ出したい

・お手入れをしやすいように

・和室が欲しい（客間・寝室・茶室）

計画の課題及び提案

①.土地利用計画とゾーニング計画

②.プライバシーの確保と終日日射取得の両立

②.パッシブデザインにおいて日射取得検討は、周辺建物の影響から敷地における最も日射熱取得の高いエリアを探すことから始めます。

まずは断面設計で確認を行います。

今計画において現況道路幅員6Mで敷地が約1.7Mほど道路から高低差があり、道路対側の建物までは水平距離で約13M、冬期の南中太陽高度を31度で設定し十分な日射取得が確認できました。

東・南側はそれぞれ8M、6Mの道路上空は当然ながら一定の空地となり圧迫感がなく抜けがあります。

西側隣接地の境界付近は2台分の駐車スペースで上空は空地となり、午後以降の日射熱を妨げる物はありません。

北側においては、西側隣接建物が計画建物より北側にあるため午後以降夕刻の西日を妨げてくれます。

上記周辺状況を把握した後は、3Dモデリングにて下屋がどの程度日照に影響を及ぶのかを検証していきます。

面積検討から1階面積が2階面積を超過するため、下屋の張り出しが必要です。

そこで下屋が南東もしくは南西どちらに配置するのがよいか、周辺状況から考えて、日射取得とプライバシーのバランスを考えます。

今計画においては南・東面が道路で、プライバシーが確保しづらいことと午後からの日照時間を過ごす時間が長いことから南東角に建物を張り出しました。

しかし午前の日射取得が自己日影で妨げられるため、南東角に張り出す建物の高さを抑えることが必要です。

ただ要望から下屋の屋根裏収納を設けるため、以下の方法で解決をしました。

自己日影を回避するために南西のダイニング上部に吹き抜けを設け、朝からの日射熱が吹き抜けを介してLDKのパッシブソーラーエリアに届き、朝の陽光を享受できます。

以下2点を検証

晴天時冬期日照時間（10時間）の6割に相当する6時間を取得する開口を確認し、さらにLDKからつながるパッシブソーラーエリア（床面積）に20%の開口面積を確保するよう開口部設計でファサードを考慮しながら検討します。

上記の面積は、LDKにおいて建具（熱の移動を遮断する）で仕切る部分までの床面積を算定します。

日射熱を取得する窓は、大きな窓となるためファサードに大きな影響を与えますので、今回のような吹き抜けとつながる窓は、サッシ最大幅の2,550ミリ幅かつ最大高さの2,200ミリの高さを使用し、吹抜の窓と開閉形状を合わせ引き違い窓で上下階のデザインを統一します。

日照時間（冬期10時間）は3Dモデリング（スケッチアップ）でシュミレーションを確認、上記の熱取得時間、面積をクリアすることで、当社の断熱性能から冬期晴天時において室温が20度近くまで上昇し、暖房負荷を軽減します。

ちなみに冬期の晴天日数ですが、外気温で最低気温が5度を下回る2021年10月17日から最低気温が10度を超える2022年3月12日までの期間で、約5ヶ月の内7割の100日以上ありますので、太陽熱の日射取得を利用することを是非とも必須とし、温かい室内で過ごしたいですね。

しかし大開口を南面に作ると同時にプライバシー面を検討しないと日中にカーテン等で締め切る結果となり、日射熱を取り込むことができずエアコンに頼らずにいられません。

今計画での提案は、庭となる南西付近では道路と敷地の高低差が1.7Mあるため、通りからの視線をまずは高低差で回避でき庭からの落下防止フェンスをウッドフェンスの縦格子で設えることで、縦格子木材の奥行きで内部が見えにくくなりさらに通風にも適し、プライバシーを守りながら縦格子のデザインとテクスチャーで建物の表情を作り、機能性と意匠性を兼ね備えた提案を行いました。