さて今回は『非日常空間が同居する売布の家』第1回、計画課題.①−2の最適解を導くための方法論についてご紹介したいと思います。
 
 
土地探しからスタートされたご家族4人の2階建てのお住いです。

計画地は宝塚市南部に位置し、縁結びの神様としても隠れた人気がある売布神社が有名です。
東側8M・南側6Mの道路で北から西へ1.7M程の高低差のある角地で、壁面後退1.0Mの第1種低層住居専用地域に指定された整形（台形型）な約70坪の土地です。

 
ご要望は
・2階水廻りと1階には大容量の収納が欲しい
・軒をできるだけ出したい
・お手入れをしやすいように
・和室が欲しい（客間・寝室・茶室）

計画の課題及び提案
①−2.土地利用計画とゾーニング計画
②.プライバシーの確保と終日日射取得の両立
 
 
検討を重ね最適解に至った方法論ですが、

①−2.ゾーニング計画についてお伝えします。
今回は前回に続いて、以下の内容についてご説明いたします。

④建物のボリュームを検討する
面積算定し、ゾーニング
↓
⑤シミュレーション
デッキ、アクセスの設え、馴染ませる

建物はファサードの佇まいを整えるために、内部空間のバランスが崩れしまうとうまくまとめられません。
まずは上下階の面積バランスを確認しつつ、構造面での不具合を併せて解消しまとめていきます。

今回のコンセプトでもある和室（客間、寝室、茶室）ですが、LDKとどう繋げるかは後ほど説明するとして、京間（畳サイズ955×1910）の要望から構造グリッド（柱間910ミリ）の倍数から外れてしまうのと水廻りがまとまった面積となり上下階のバランスに影響を与えるため、このポイント2点にウエイトをおきながら検証します。

前回の建物配置において北側が崖条例により一定の離隔距離が必要なため、明るさ、プライバシー、外部とのつながり（庭）、また東側のアプローチ空間を確保した場合、東西方向には12〜13のモジュール（柱芯々910×12〜13）、南北方向に6モジュール（柱芯々910×6）で設定をしましたが、1階の要望（玄関、LDK、和室、水廻り、収納）を帖数から換算し面積算定した結果、1階に収まり切れません。
そこで2階に水廻りがあることのメリットを考え提案をしました。
水廻りが2階にあることで日常生活では起床→トイレ→洗面→1階へ、洗濯→乾燥→収納と洗濯動線で完結でき、生活動線の効率化から2階に水廻りを提案し、かつグリッドから外れた和室をベースになる総2階建物から外れた下屋とすれば上下階のバランスが整います。
和室のゾーニングにおいても以下のように検証しました。
北側には上記の崖条例による離隔距離からスペースがありません。
そこで終日の明るさとプライバシーを考え、建物南東角付近に和室を下屋として配置しかつ吹抜けを設けることで終日の明るさが得られ、さらに南庭のプライバシーも同時に得ることができます。

要望から和室はパブリックな要素が強いため、南東角付近であれば東側の玄関からすぐに迎え入れることができ、ダイニングではなく同じパブリックの要素が強いリビングと空間を繋げることが必要と考えました。
ただ動線上にあるリビングは、動線の終端にあるリビングより落ち着いた状況を作り出すのが難しいため検討が必要です。
動線によりリビングとして使用できるエリアが決まるため、東西・南北共空間にゆとりを持たせました。
そうすることで南東の和室と北側のファミリークローゼットで挟まれたリビングは陰影を持つ落ち着いた空間となり、また視覚的に空間を広く感じる抜け感を作るため、和室を引き込み戸でかつ扉を縦格子のみで設えました。

1階ですが玄関から北側のエリアには、SCL、水廻りのトイレ・洗面とキッチンに向かうまでに2種類の動線を作り、回遊できる動線を提案しました。
北側の水廻りからファミリークローゼットを経由してキッチンへさらに西側のパントリーへ、キッチンはファミリークロゼットとリビングの間を抜ける動線で、北側からキッチン、ダイニング・吹き抜けさらに庭へ空間が繋がります。
もう一つのメイン動線は、玄関からリビングと和室の間を南側の外壁沿いに通過して西側の階段から2階へ向かいます。

北側には水廻りを集約して、東側から南側に寝室、書斎エリアとしました。
東側から3グリッド、1階の玄関エリアの上部2階には子供部屋を将来2室に分けられるように、さらにファミリークローク、リビングの5グリッドの2階は、北側にトイレ・洗面・脱衣ランドリールームを設け廊下を挟み寝室・書斎、西側の4.5グリッドには北側に浴室・階段ホールと階段と一体となる吹抜とし、中央の廊下タイプとして北・南側に諸室を配置しました。

庭に位置する部分は南東角にある和室の下屋でオープンになりすぎず、プライバシー面で程よい解放感が生まれました。
ファサードを馴染ませ、違和感のないようにするために以下の検討を行いファサードを整えました。
和室の下屋の配置について、東側外壁面を揃えてしまうと2階建て部分から下屋部分にかけて違和感が生まれ素直に建物の形状が見えないため、和室を2階建ての外壁面から1グリッド西側に移動しました。
東面には陰影を作るため、玄関ポーチの庇を東面全体に作り、窓数を抑えバランスよく配置します。
また要望から片流れとするため屋根勾配を極力抑えた2寸の緩勾配として高さを抑え、北側部分においても間延びを感じさせないように2階の階高さを標準階高よりも60センチ程度抑えることで、建物高さの重心がより抑えられ落ち着いた佇まいとなるよう配慮しました。

次回は計画の課題②.プライバシーの確保と終日日射取得の両立についてお伝えさせて頂きます。