ー緑の雲が庭とつなぐ大和の家ー③

2022年11月1日更新

さて今回は『緑の雲が庭とつなぐ大和の家』第3回、
計画課題.②の最適解を導くための方法論についてご紹介したいと思います。
 
土地探しからスタートされたご家族4人の2階建てのお住いです。

計画地は、川西市北東端に位置し、大阪府との境である光風台地区と隣接した
昭和40年台に大手デベロッパーが開発したニュータウンです。
最寄駅から4〜5分の好立地、西側6M道路、外壁面後退距離は1Mの
第1種低層住居専用地域に指定された東西に長い約50坪の土地です。

 
ご要望は
・気持ちの良い場所でのんびりしたい
・お庭で食事を楽しみたい
・健康で快適な暮らし
・程よい距離感で過ごせる家
・季節の移ろいを庭で感じる暮らし


計画の課題及び提案
①.土地利用計画とゾーニング計画
②.プライバシーの確保と終日日射取得の両立
 


検討を重ね最適解に至った方法論ですが、
②.パッシブデザインにおいて日射取得検討は、周辺建物の影響から敷地における最も日射熱取得の高いエリアを探すことから始めます。

【日射熱取得について】
冬期晴天の日に、社内規定(窓の面積及び日射熱取得時間)以上の日射熱取得ができれば
リビング・ダイニング・キッチンエリアは、エアコンを稼働させることなく20度近くまで
室温が上昇し暖かい室内環境が得られます。
それでは、検討するプロセスをご紹介したいと思います。
まずはブログの1回目でご紹介しました周辺状況を把握し、
周辺建物の位置・高さをできるだけ正確に確認します。

『緑の雲が庭とつなぐ大和の家』計画課題.①−1のブログ
→ https://www.fukuda-lld.jp/blog/?p=32310

今計画のように南側が隣接宅地の敷地境界に接する場合は、建物を北側に可能な限り設定した上で、
冬期の太陽高度で太陽熱が計画建物のどこまで日射熱を受けることが可能かを確認します。
冬期の南面における太陽高度は約30度程度ですので、
隣接建物高さの約1.7倍の離隔距離があれば1階の窓全体で日射熱をダイレクトに取り込むことができます。
2階建ての建物高さは約6M程度ですので、日射熱を建物高さ全面に取り込もうとすると
隣接建物から10M程度の離隔距離が必要になります。

しかし、敷地の南北方向の長さが11Mほどしかないため困難です。
それではどのような検討を行うかご説明します。
パッシブデザインの日射熱利用暖房でダイレクトゲインという手法があります。
床及び壁面に直接日射熱を当て建物内に熱を蓄えます。
ここで、室内に取り込んだ熱を逃さないよう断熱を強化することはパッシブデザイン5つの要素の一つで、
冬期において晴れた日に室温が20度近くまで室温を上昇させ維持するための役割を断熱性能が担っています。
以下の断面図をご覧頂くと分かるように隣家の影響から1階の日射熱取得量が少ないことがわかります。
そこで吹抜けがあることで、前段でご説明した離隔距離を設けなくても日射熱取得量が増加することにつながります。

ただ、断面検討で日射熱取得量は増加しましたが、1日の中でどの程度の時間を取得できているかは確認できません。
次に使用するツールは、3Dのモデリングソフトです。
計画地において、日射熱取得が最も多いエリアを確認することは勿論ですが、
壁面(窓)に日射熱を受ける時間がどの程度あるかを確認するツールです。

社内規定により規定する時間を、このツールで確認しながら意匠的なバランスを検証し
窓の位置及び大きさを決定していきます。
また冬期において、周辺の影響を受け日射熱が入手できない窓は、
外壁よりも断熱性能が劣る為、窓の熱損失を防ぐ措置を講じる必要があります。

【プライバシー確保について】
それではプライバシー確保についてご説明いたします。
パッシブデザインにおける設計の場合、南面に空地を作ることを基本としますが、
道路が西もしくは東面にある場合は、南側にある隣接建物の北側窓は比較的小さな窓が多いですが、
プライバシー面においては境界線に沿うように常緑樹を中心とした混色生垣であったり、
ウッドフェンスでコートのような設えでより一層プライバシーを確保することが可能です。
また道路からの視線については、ゾーニング計画の際にあらかじめプライバシー面も考慮しながら、
玄関を南西面に突き出した下屋により通りからの緩衝帯となり、プライバシーに寄与します。

【室温差について】
最後になりますが、今計画の室温と通風について少し触れておきたいと思います。
室温についてですが、水廻り空間がリビング・ダイキング・キッチンと温度差ができないように、
ゾーニング計画の際に空間を直接繋げることができるように隣接させた計画を行います。
今計画では最終プランの経緯において水廻りを1階に変更した際、
構造グリッドから西側エリアにホールから繋がる配置としました。
玄関エリアは直接外気と繋がるスペースで、冬期においてリビング・ダイニング・キッチンエリアの
暖気が玄関エリアの風除室で閉ざされることになり、水廻りと室温差が生まれ快適性が損なわれます。
そこで水廻りと繋がる内壁に内窓を提案しました。
リビングダイニングキッチンと直接繋がるようにしておくと、小窓であっても熱移動と
水廻りに24時間換気扇があるので内窓を開放すると暖気をある程度引っ張ってくれます。
よって玄関側から出入りする水廻りの寒さの緩和につながります。

【通風と遮蔽について】
続いて通風についてですが、少し話が横道にそれますが吹抜の窓についてこんな質問を受けることがあります。
「この窓はどうやって清掃するんですか」と、
まずガラス面について、汚れにくいように庇を取り付けます。
ガラス面の拭き掃除を行いたいリクエストがあれば、室内の窓に至るまでの通路を作ったり、
外部側であればウッドデッキのすのこを提案します。
ここで通風、遮蔽のメリットを紹介したいと思います。
通風において吹抜けに面する2階に、廊下のみの用途ではなく滞在する用途、
ワークスペース、読書コーナーなどを設けた際には、
中間期に大きな窓から通風の気持ちよさを存分に感じられ効果的ですね。
また吹抜けの大きな窓があるが故に、夏期の日射遮蔽部材のコストも大きな負担となりますが、
窓付近に足場があることで簡易で安価な遮蔽部材を選択できます。


商品(廉価版)を紹介したいと思います。
外部ロールスクリーンで以下の商品です。
■LIXIL製のスタイルシェード
https://www.lixil.co.jp/lineup/window/styleshade/
■YKK製のアウターシェード
https://www.ykkap.co.jp/consumer/products/exterior/outershade
日射熱を8割以上カットし、室内からは外の雰囲気を感じ取れ日中であれば外から室内が見えにくくなります。
またシャッター同様、上部に巻き上げ格納することができますので非常に便利なツールです。

上記のような設計手法から、住まいと外気との間、隣接建物また境界線までの間(中間領域)を設計することで、
室内から繋がる庭まで室内との一体感が生まれ内外部空間を楽しみ、住んでみて初めて実感して頂けると思いますので、
今後も我々が大事にしていきたい要素の一つとなっています。


 

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